猫のマッサージ師

 我が家には素晴らしい猫のマッサージ師がいる。白黒の、どこにでもいるオス猫だ。名前は福、威勢のいい半面、おくびょうな彼のどこに取り柄があるのかと思うだろう。子猫が母猫の乳房をまさぐるような様子を見たことがあるかもしれない。また、おとなの猫が毛布などの柔らかいものを踏み踏みすることも珍しいことではない。たまに人の背中を踏んでくれる猫というのもあるらしい。それはとても可愛らしいしぐさである。だが、福のそれは、人の側から言うと単にかわいいだけではなく、素晴らしいリラックス効果をもたらしてくれるのだ。

では、まず、彼お気に入りの柔らかいチエックのハーフケットを用意しよう。これは必需品である。これなしでマッサージを期待しても、彼はそっぽをむくか、やり始めても気が変わってどこかに行ってしまうからだ。だが、このハーフケットを肩から羽織り腹ばいになれば、彼の目は好機を得たとばかりに背中へ乗っかってくる。福の重すぎず軽すぎず、ちょうどよいからだの重みと、しなやかなかわいい足の動きが背に伝わってくる。その気持ちよさたるや正に飛行機の滑空するがごとくである。滑走は静かに確かめるように徐々に上昇へ。そうしてしばらくは背中、腰、臀部と場所を変えながら小刻みな足の動きに変わってくる。彼も満足そうに「グル、グルー」と喉を鳴らし始めた。時に踏み足をすり足に、そうかと思うと背筋を伸ばしてみたりしながら余裕で順調なフライトが続く。人も猫も至福の極みである。そうこうしているうちに次第に高度は下がり始め、いつ降りたともわからぬうちに無事着地となる。不覚にもわたしは、正体わからぬまま睡魔のしとねに落ちてひとときの漂流飛行は終わるのである。不眠で苦しんでおられる人に、ぜひ、この眠りをお分かちしたいものだ。